
Jean Francisque Millet 『The Angelus』(1859年)。
仕事を選ぶポイント
労働や仕事は、まず生きていくための生活費を得るための営みであると考えられます。ですから仕事を選ぶときにはまず給料の高いものを優先するというのは自然な事です。
ただ難しいのは、給料が高いのに越したことはないのですが必ずしもそれが自分に合った仕事であるとは限らないことです。聖書に「人はパンだけで生きるものではない。」(マタイ福音書4章4節)とありますように、人にはどうも給料だけで仕事を考えるとは限らず、本当に自分のやりたい事、自分に合った仕事でないと幸福感・充実感が得られないのも事実なのです。給料と自己実現の兼ね合いが仕事を考える際の一つのポイントであるかもしれません。

Millet 『鍬を持つ男』(1850年)。
労働神事説
わが国では昔から「労働神事説」というものがありました。それは「労働」を神事、すなわち宗教行事としてとらえるという考え方です。その典型が農業です。稲作は神が我々に与えた特別の生命の営みであって、農作業はすべて神に仕える営みとしてとらえます。それゆえ田植えの時(春)、又収穫の時(秋)は必ず神を祭る儀式を行います。新甞祭などもその一つです。
農業だけでなく、漁業はもちろん、工芸職でも、近代工場でもよくその仕事場に神棚を置き、まず神を礼拝してから仕事を始めたものです。商業でもそうです。多くのお店で神棚を祭っています。もちろんこの場合でも多くの収穫・利益を挙げる(高い給料)事と深い関わりを持っていますが、最近の風潮とは違ってただ儲ければよいと言うのではなく、真面目に骨身を惜しまずこつこつと働くこと、決して不正をしないこと、など高い倫理性を伴ったのです。この点はもっと積極的にとらえたいと思います。
ただ労働神事説の問題点は、ユダヤ・キリスト教で言う「安息日(聖なる休暇)」の意義をよくとらえられないことです。休むことは悪(怠惰)ととらえる傾向が強すぎ、その影響から過労死、ニート、不登校問題などが起きていると考えざるを得ません。
召命と仕事
ユダヤ・キリスト教では「労働神事説」をとりません。それどころか創世記3章17節〜19節を見ると労働は神の罰であるとされています。また十戒の「安息日」規定を見ても、神の民として大切な事は労働よりも神を礼拝することであることは明らかです。
聖書には仕事について直接ふれている箇所はありませんがヒントになるいくつかの箇所がありますのでそれらを参考にしながら仕事の意味を考えていきたいと思います。
まず仕事をするかしないかまたどういう仕事をするかどうかは、キリスト教にとって第一義的なことではないということです。ローマの信徒への手紙第14章7〜8節に「わたしたちの中には、だれ一人自分のために生きる人はなく、だれ一人自分のために死ぬ人もいません。わたしたちは、生きるとすれば主のために生き、死ぬとすれば主のために死ぬのです。」とあり、「キリストの恵みを証しするため」ということが仕事をする意味なのです。クリスチャンにとって主イエスの恵みを証しするような仕事、又働きぶりを示すことが大事です。コロサイの信徒への手紙3章22〜23節に「どんなことについても肉による主人に従いなさい。人にへつらおうとしてうわべだけで仕えず、主を畏れつつ、真心を込めて従いなさい。何をするにも、人に対してではなく、主に対してするように、心から行いなさい。」とあるとおりです。

Millet 『糸を紡ぐ女』(1855年)。
ですから仕事はそれぞれに神さまから与えられた召命感に基づくべきものです。それは給料のためだけではなく、又自己実現のためだけでもなく、神さまの栄光を証しするためになしていくのです。この仕事が本当に神さまの栄光を証しするものかどうかということと、この仕事でどのように働いたら神さまの栄光を証しすることになるかをいつも考えます。つまりすべてが信仰の証しなのです。ローマの信徒への手紙14章23節に「確信に基づいていないことは、すべて罪なのです(口語訳:すべて信仰によらないことは、罪である)。」とあるように、日々の仕事と信仰の確信とは密接な関係があります。この点だけをとらえればやはり「労働神事説」に近くなります。
以上のことを踏まえた上で次の御言葉を「働く指針」としたいと思います。
「落ち着いた生活をし、自分の仕事に励み、自分の手で働くように努めなさい。そうすれば、外部の人々に対して品位をもって歩み、だれにも迷惑をかけないで済むでしょう。」
(テサロニケの信徒への手紙一 4章11〜12節)
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(編集) 伝道研究委員会
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